目次
4.映像作品作りの前に────主人公を作ろう
前回は、実習を交えながらプロット執筆の理論をご紹介しました。その中で、プロット執筆にはキャラクターの作り込みが必要不可欠であることがご理解いただけたと思います。今回からは、複数回にわたって「主人公」「敵」「脇役」という3つのカテゴリのキャラクターを創る手法をご紹介したいと思います。まずは、主人公の創り方です。
主人公を創る──これは映像制作に限らず、あらゆる創作において最難関であり、また醍醐味でもあるポイントです。主人公を創ることが難しい最大の理由は、その自由度の高さでしょう。基本的に、どんな属性の人物であっても主人公になり得ます。動物だって主人公になり得るのですから、性別や人種など言わずもがなです。しかしながら、世の中にある作品をずらりと並べて眺めてみると、主人公は概ね2種類に大別出来ることがわかります。それは、「人間型」と「ヒーロー型」です。それぞれのキャラクターの作り方と、キャラクターが活きるストーリーの型をこれからご紹介します。
(1)人間型主人公──弱さを超えて強くなれ
人間型主人公は、読んで字のごとく等身大の人物像を持った主人公です。我々と同じように悩み、戦いを恐れ、仲間の死に涙するキャラクターです。こういったキャラクターは共感しやすく、感動的なドラマを創りやすいのが長所です。一方で、人格的にも能力的にも普通の人間の域を出ないため、第一幕をエキサイティングに作るのが難しくなりがちです。そのため、人間型主人公は、「主人公が抱えている課題=望み」をいかに面白く作れるかが鍵になります。なぜなら、主人公そのものの能力や活躍で観客の注目を惹くのが難しく、むしろ彼ら彼女らの葛藤=つまりストーリーの軸のほうが注目を集めるからです。
人間型主人公を中心に据えた映画を面白くしたい場合、主人公の抱える課題=ストーリーは概ね「欠落」もしくは「ピンチ」に大別できます。欠落とは例えば、「シューズを買うお金もないサッカー少年」や「いじめられっ子」といった具合です。ピンチは至極単純で、放蕩息子が家を追い出されたり、殺人事件に巻き込まれたりといった状況のことです。欠落型の課題とピンチ型の課題は明確には区別されず、双方を併せ持った課題がストーリーの中心になることもあります。
また、人間型主人公は仮に主人公に据えない場合でも共感しやすく物語に没入する窓口として使えるため、後述するヒーロー型主人公のサブに置かれる場合も多くあります。何はともあれ、これだけは覚えて帰ってください。───「人間型主人公は追い詰めろ」
-ジャック・ドーソン(レオナルド・ディカプリオ) 『タイタニック(1997)』
-アンドリュー・ニーマン(マイルズ・テラー) 『セッション(2014)』
-ウィル・ハンティング(マット・デイモン) 『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち(1997)』
-マーティ・マクフライ(マイケル・J・フォックス) 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズ
(2)ヒーロー型主人公──快感原則の権化
ヒーロー型主人公は、物語開始時点で既に何らかのプロフェッショナルである主人公です。高い能力や達観した人生観を持ち、淡々と仕事をこなします。こういったキャラクターは、第一幕からとにかく気持ちのいい活躍を提供してくれるのが最大の魅力です。また、その強い魅力ゆえに、人間型主人公を据えた作品における主人公のメンター(上司、師匠など)として使用されることも多いキャラクター造型です。
ヒーロー型主人公に面白い活躍をさせたい場合は、とにかく「敵」を作り込むことが重要になります。プロフェッショナルは、敵を必要とするのです。魔王、犯罪組織のボス、怪獣、ゾンビ、サメ…といった具合に、プロフェッショナルの技術を際立たせ、断末魔の叫びとともに気持ちよく消えてゆく敵キャラクターが要求されます。敵キャラクターの創り方については、次回ご紹介いたします。
一方で、その強さ故に葛藤が少なく、感情に重きを置いたドラマは作りづらい傾向にあります。また、主人公そのものに欠落がないため、主人公自体に求めるものがない=物語を進める力がない場合が多いです。そのため、ヒーロー型主人公を効果的に動かすためには、置かれている状況の方にストーリーの主軸を置くことが重要です。世界を揺るがすテロや宇宙人の襲来、ゾンビの発生などの逃れようのない大惨禍が、ヒーロー型主人公にはよく似合います。そして、こういった状況に主人公が介入する必然性を与えるため、ヒーロー型主人公は軍人や警察官、あるいは父親といった「状況に対して責任を負っているポジション」が与えられることが多いです。そういった立場であれば、積極的にトラブルへ介入する理由をいちいち説明する必要がなくなります。また、俳優そのもののイメージをキャラクター造型に利用する場合もよく見られます。トム・クルーズやジェイソン・ステイサム、キアヌ・リーヴスは今やヒーロー型主人公の典型となった俳優です。
ヒーロー型主人公には、もうひとつ大事な特徴があります。それは、「続編が作りやすい」ということです。主人公自身の葛藤に決着が付いているため、放り込む状況さえ変えれば何度でも彼らを戦わせることができます。そのため、下記に挙げる例にも長寿シリーズの主人公や大人気キャラクターが非常に多いです。長くなりましたが、ヒーロー型主人公についてはこれを覚えてください。───「ヒーロー型主人公には、追い詰めさせろ」
-イーサン・ハント(トム・クルーズ) 『ミッション: インポッシブル』シリーズ
-ジョン・ウィック(キアヌ・リーヴス) 『ジョン・ウィック』シリーズ
-ジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ他) 『007』シリーズ
-トニー・メンデス(ベン・アフレック) 『アルゴ(2012)』
(3)結末は表裏一体
ここまでで紹介した2種類の主人公の類型にはそれぞれ期待されるストーリーの型がありますが、同時に期待される結末の型もあります。人間型主人公の場合、大抵は「弱さを捨て、ヒーローになる」ことで完成します。第二幕で訪れるどん底を乗り越え、仲間と力を合わせて第一幕で設定された課題をクリアするといった具合です。
一方で、ヒーロー型主人公は「守るものができ、人間的な弱さを取り戻す」ことを期待されます。典型的なヒーロー型の物語だと、マッチョな主人公がヒロインと出会うことで戦い一辺倒な人間ではなくなる…といった具合です。
つまり、人間型主人公はヒーロー型主人公の前日譚ともいえるわけです。ゲームで前作主人公が続編の助っ人になったりするパターンを考えると、分かりやすいと思います。魔王を倒すまでが人間型主人公としての物語、それ以降がヒーロー型主人公としての物語なのです。
(4)欲張りなあなたへ──「運命の子」
ここまでの説明を読んで、がっかりした人もいるかもしれません。「自分の作品の主人公には、等身大の人間とヒーローのどちらの属性も持たせたかった」と……安心してください。そんな欲張りなあなたの欲求を叶える第三の主人公、「運命の子」をご紹介します。
運命の子とは、等身大の人間でありながら、血統や呪いによって後にヒーローとなることを運命づけられたキャラクターです。おそらく、歴史に残る大ヒット映画の主人公の半分以上がこれに当てはまります。それだけでなく、日本の漫画やアニメでも人気のあるものは大概この属性を持っています。それゆえに、多くのクリエイターの憧れの的になる主人公です。
但し、このタイプの主人公の造型は、シリーズ化を前提としています。1作品では、人間としての葛藤を描くにもヒーローとしての宿命を描くにも上映時間が足りないからです。初めて作品を撮る方、特に短編が主流のVRChat映画でいきなりこれにチャレンジすることを筆者はおすすめしません。夢ばかりが広がってしまい、結果的に作品が頓挫する──いわゆる「エタる」ことの理由のひとつは、迂闊に運命の子を主人公にしてしまったことだと筆者は考えます。今の自分の状況をよく考えて、主人公の造型を選択してください。
-ルーク・スカイウォーカー(マーク・ハミル) 『スターウォーズ』シリーズ
-ハリー・ポッター(ダニエル・ラドクリフ) 『ハリー・ポッター』シリーズ
-ジェームズ・T・カーク(ウィリアム・シャトナー) 『スター・トレック』シリーズ
以上が、主人公創りの基礎的な理論です。無限に思える主人公のパターンも、こうして整理することでいくぶんか理解しやすくなったのではないかと思います。しかし、こういった理論ひとつあれば難なく作れる…というわけでもないのが主人公作りの難しいところです。映像制作の過程は有機的に結びついていますから、コンセプトを決め、主人公を作り、プロットを書き…と綺麗な順序で進むことばかりではありません。もし詰まってしまった場合は、第1回で触れた通りコンセプトに立ち返ってみてください。主人公は、いわば物語の世界を生きるあなたのアバターです。コンセプトを最も体現するキャラクターとはどんな人物なのか、是非楽しみながら考えてみてください。
次回は主人公の対になる、いわば影の主人公──敵キャラクター創りの理論についてご紹介します。
おまけ:こりゃ悔しい!のコーナー
コラムの最後に、筆者が「こりゃ悔しい!」と感じたまだ見ぬ名作VRChat映像作品をご紹介いたします。
第4回:『【VRChatワールド紹介映像】 World – Aoinu’s Shooting Lab by – Aoinu[あおいぬ]』(シンセキくん監督/2022)
今回は、映画ではなくPVをご紹介します。VRChatではアバターやワールド、イベントなど様々なPVがひしめいていますが、中でも特に心に残ったのがこの1本です。PVには短い上映時間で観客の心を掴む技法がたくさん詰まっていますが、本作はカット割りと視覚効果の使い方が特に見事でした。こういったVRChat内で撮影するのが難しいシーンは、Unity上で素材を撮影し合成処理を加えることで表現できる場合があります。
合成処理の多用はVRChatで映像を撮影している意義を揺るがすため安易に用いるべきではないと筆者は考えますが、一方でVRChat内で撮影することを神聖視しすぎるのも危険です。自分なりに「VRChat内で撮影する理由は何か?」を考え、それに反さない範囲でこういった視覚効果を作品に加えてみてください。
映画プロダクション「カデシュ・プロジェクト」代表のだめがねさんのVRChat映画制作するために必要なことをまとめた連載企画。第4回では、主人公のタイプを2種類に分けてご紹介。