ショップ『フジヤマロマンス』オーナー武本碧衣にインタビュー。好きなものを作り続けるためには【BOOTHクリエイター最前線】

BOOTHでは日々VRChat向けのアバターや衣装などが商品として公開されユーザーが購入し続けています。「BOOTH 3Dモデルカテゴリ取引白書2025」によると、3Dモデルカテゴリの取扱高は58億円に達し、前年比約187%の成長を記録しました。

ユーザーの中には、BOOTHでショップを展開しているクリエイターが何を考えているのか、これからショップを作りたいと思っている人もいるはず。

そこでメタカル最前線では、ショップを開設し商品を作り続けている最前線のクリエイターにインタビュー。BOOTHクリエイター最前線として、複数回に渡ってさまざまなクリエイターの視点をお届けします。

今回はショップ『フジヤマロマンス』を運営している武本碧衣さんにインタビュー。モデリングの経験なしから始まった人がいかにして好きをベースに衣装を作り続けているのか聞いてきました。

(インタビュー・編集:東雲りん、執筆:ふれあ。)

改変する側から、モデリングする側へ『フジヤマロマンス』の始まり

──『フジヤマロマンス』の運営を始めたのはいつからでしょうか?

最初の衣装を出したのは2021年8月で最初の商品はイメリスちゃんの水着でした。

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──衣装作りを始めたきっかけはなんでしたか?

私がアバターの改変をしていた際に「欲しい衣装があまりないな」「この売られている衣装もっと可愛く出来るな」と思い、とりあえずやってみました。そして最初に水着を作ってみて「楽しいからちゃんとした衣装を作ろう」と本格的に取り掛かるようになり、今に至ります。

──以前からモデリング経験はあったのでしょうか?

もう全然ないです。絵はもともと描いていたのですが、3Dモデリングの経験はなかったですね。

──となると、独学で勉強したわけですね。

初めて衣装を作ろうと思ったときに、購入したアバターとかをやっぱめちゃくちゃ見ました。そもそもVRChat向けのアバター衣装、3Dモデル自体がどのような仕組みで動いているか勉強しました。UV、テクスチャ、ボーン、ウエイトなど、3Dモデルの構造を理解してから衣装制作を始めましたね。

──解剖してから身体の作りを理解するみたいなものですか。

「なんとなく」でやるよりも理解してからじゃないと、気持ち悪くて手が動かないタイプなんですよね。ひたすらBlenderなどで眺めて真似っ子しました。なので、正直なところ自分が作っているものは、未だに何が正解なのか分からないですね。

武本さんの見る「変わっていくVRChat市場」

──2021年にショップを開設してから、今では大きく成長した『フジヤマロマンス』ですが、実際どういった形で広がっていきましたか?

正直意識していないのですが、3番目に出した商品『プレミア・ニュイット』をランジェリー衣装で購入していただきました。BOOTHやXの告知もすごく、それ以降見てもらえるようになったなと思っています。

正直なところ、人気のために何かやったことは特にないので運が良かったですね。当時は今ほどショップもジャンルも多くなかったので、「無いものを作る」という事で評価されたのかな?と思っています。

──ショップを運営していて苦労している点などはありますか?

VRChatのユーザーが増加したことで、BOOTHショップが個人で運営されていることを意識していない人もいると感じています。実際にショップに寄っては複数人、企業で運営しているケースもあるので、一概には言えないのはありますけどもね。

Xなどで自分のショップについて検索した際に、心ないコメントを見かけることもあり、精神的に辛いこともあります。 もちろん貫通や不具合などの報告は真摯に受け止めなきゃいけないですし、ちゃんとしたメッセージを送ってくださっている方には本当にありがたいなと思っています。

BOOTHに商品を展示すると、どうしてもスキの数は見えてしまうので意識していますね。他のショップや同時期に始めた人を見ると、自分より人気のある人がいっぱいいるので悔しいですね。ただ一方的に良いところだけ見て羨んでるだけで、もちろん私より時間をかけて苦労しているはずです。

──商品を作っていく上で何かや、今と昔で何かしら変化とかってありますか。

制作を続ける中で、作業ペースが速くなり、ソフトにも投資できるようになりました。収入を得られるようになったので、月額の金額がそこそこするモデリングソフトに触るようになりましたね。

3D制作ツールで使われているAdobe Substance 3Dは
画像のような価格帯

原点は「『好きなもの』を作り続けること」

──ショップ運営のスタンスはどのようなものでしょうか?

当初は趣味の延長で始めたショップでしたが、VRChatユーザーの増加に伴い、今では収益化できるまでになりました。

──これまで衣装を作り続けるために、モチベーションや、日頃工夫していることなどはありますか?

衣装を作って表に出したものに対して反応をいただけることですね。3年半もやっていると、自信がないなりに自信が付いてくるので、やり続けることが1番だなと思っています。

なので、基本的に何か続けることがモチベーションを保つ方法です。

でも、私は環境がめちゃくちゃ大きいと思っていますし、運も良かったと思っています。BOOTHの収入で生活できる程度にはありますし、最悪1ヶ月商品が作れなくても多分収入的にゼロではないので割り切れます。なので、しばらくBlender触るのやめて温泉に行こうとやりたい放題もできますからね。

でもいずれにせよ、気持ちを病んでしまう、体調を崩すならば折り合いをつけて生活第一にするのが1番だと思います。今月は仕事で全然帰れなかったけども、家に帰ってご飯食べたら元気になったらちょっと触るのを続けても、私は全然いいと思います。

──フジヤマロマンスではどのような方向性で衣装を作成していますか?

基本的に方向性を決めないようにしていて、好きなものを作成したい!と思っています。最近はフレンドからセミオーダーの依頼を受けることもあり、自分の好みとは異なるジャンルの作品に挑戦できることも楽しんでいます。

セミオーダーで作成したものはポートフォリオから確認できる

──セミオーダーで作成した衣装はどういった衣装でしょうか?

最近では「影舞装」のセミオーダーを受けました。セミオーダーでは、お客様のリクエストを元に複数のデザイン案を提案し、その中から選んでいただく形式をとっています。制作した商品は、BOOTHのショップでも販売しています。

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──デザインを起こした後に問題なさそうだったら支払って受注する流れなのですね。

セミオーダーではありますが、デザイン案で出すものは全部作りたいものです。なので、どれを選んでもらっても構わない感じになっています。中途半端に作るぐらいならばやらないと決めていますので。

──趣味と依頼を両立させているやり方って感じですね。

自分がやりたいことに集中できるように環境を整えています。セミオーダーで話を聞くときには、基本的に全部事前に聞いておくようにしていますね。イメージの話を聞くときに絶対に入れて欲しいもの、どこで着ていきたいのかは絶対に押さえています。

──そのまま自分で衣装を作るときにも使えそうな考えですね。

初めて衣装を作る人は、この衣装はこのようなワールドやイベントで着て欲しいといったシチュエーションを考えるといいですね。逆に明確なシチュエーションがないと自分は作れないですね。なんかいい感じに綺麗なやつと言われたら絶対に無理だと思います。

──例えばインタビュー時に1番直近で作っていた衣装のLunaGraceはどんなテーマで作成しましたか?

私のフレンドには、夜のお店をイメージした接客系イベントでキャストをしている人が多いため、セクシーな雰囲気の衣装を制作しました。

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──想像以上の欲望ベースですね。

フジヤマロマンスの衣装でどこに来てほしかったのかクイズをやったら結構分かりやすいと思います。ただ、「ストリートチャイナ」という衣装は、人前で着用できる程度の露出度を意識して制作したのですが……

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SNSの反応を見るとちょっとお腹が出ているのでセクシーですねといった声を見かけまして。やっぱり人によってセクシーと感じるラインは千差万別だなと改めて思いました。

──これからBOOTHショップを始める人にアドバイスなどあれば最後にお願いします。

BOOTHで活動していると、成功しているクリエイターや人気商品が目につくと思いますが、結果や名声にとらわれず、自分が本当に作りたいものを制作してほしいです。私は「なぜなぜ人間」なので、「売れそうだから作る」のではなく、「なぜ売れるのか」を考えながら制作する方が楽しいと感じます。

後は、メッセージで心のない内容が届くことが多分あると思います。向こうは悪気がなくても、言われたくなかった言葉もあると思います。そんなときは、相手も人間であることを忘れずに、適切な対応をしましょう。

──自分の心を守るためにも必要な心がけですね。今回はインタビューありがとうございました。