400人が同じ会場を共有する 前代未聞のVRChatライブ「CIEL LIVE SHOWCASE」をレポート

11月25日、KAMITSUBAKI STUDIO(以下、神椿)に所属するフィメールシンガー「CIEL」が初の単独公演となる音楽ライブ「CIEL LIVE SHOWCASE at VRChat」をVRChatにて開催しました。

神椿といえば、花譜理芽VALISなど実力派バーチャルシンガーが所属するVTuberファンにとっても聞き馴染みのあるクリエイティブレーベル。CIELも、2021年5月にデビュー、同年6月には全くの無名ながら映画「映画大好きポンポさん」の主題歌担当に抜擢されるシンデレラストーリーを描き、YouTubeチャンネル登録者数は執筆時点で17万人を超えています。

そんな実力派シンガー、そして「世界観」を重視する神椿によるVRChatライブイベントということで、一体どんなイベントになるのかと期待が高まっていました。

400人が同じ会場の空気を共有する 前代未聞の客席演出

今回のイベントは、「Group」インスタンスでの開催。事前にイベント専用の「Group」に参加し、開場の時間には全部で8つのインスタンスが開かれました。各インスタンスの上限人数は50人。全員が専用の観客アバターに着替えるなど、負荷対策もしっかり考えられており安定した環境で楽しめそうですね。

さすが、「世界観」の神椿。今回の会場は「神椿市伍番街」にある水門施設の跡地を改装した場所ということで、水辺のキレイなロケーションに、打ち付けのコンクリートの巨大建造物というなんともそそるワールドコンセプトでした。ちなみに、会場制作は「青色クラブ」オーナーの藍上アオイさんが担当(関連記事)。たった2曲のトライアルライブですが、コンセプトからしっかりと練られたクリエイティブの完成度の高さで、ぐっと世界観へと引き込まれます。

「神椿市伍番街西水門管理局」と書かれた看板が見える
神殿みたいなサイズの水門施設跡地
河なのか海なのか、水辺の上をハイウェイが通っている

そして、入場を済ませると、何やら入口ゲートが複数に分かれている?

なぜか「NO ENTRY」と書かれた入口が複数……

疑問に思いつつ、入場可能なFゲートから会場へ入ると…….

入れるのは唯一「Fゲート」のみ

なにこれ!?めちゃくちゃ人がいる!?!?

みな口々に驚きの声を上げていました。ここ、50人までじゃなかったの……?
試しにネームプレートを再度表示してみると、確かに表示されるのは、同じゲートから入った人たちだけ。だけど、他エリアに見えるアバターたち。これ元からワールドにいるキャラクターではないんです。他のインスタンスのユーザーたちを同期してるんです!(なにその謎技術!?)

ほら、手を振ると、向こうから振り返してくれる!こっちからも!

奥の方で数人の別インスタンスのユーザーがこちらに手を振ってくれている
隣のインスタンスのユーザーと手を振り合ってコミュニケーション

VRChatを普段からプレイしているユーザーなら、このすごさが分かると思います。
400人が、まさに同じ会場を、同じ空気を共有しているんです。

声はかけられないかもしれない。でも、身振り手振りでコミュニケーションは取れる。一気に、「ただのVRChatライブ」ではなくなった瞬間でした。

可能性を魅せてくた2曲のパフォーマンス

少しすると、会場は暗転。夕暮れだった会場が途端に星空が綺麗な夜へと時間経過します。そして、CIELがステージ上へ登場。1曲目に披露されたのは、「馥郁の街」(ふくいくのまち)でした。

観客用の専用アバターが、会場のライティング演出とリンクして様々な色に光る。さながらリアルライブのペンライトのように会場全体が一体感を持って楽しめます。

マイクパフォーマンスの際に、「一階席の皆さん~!二階席の皆さん~!」とステージから観客席側に手を振るシーンが。リアルのライブだとお馴染みですが、実際に「ステージから、観客席に手を振り、観客が振り返す」といったステージと客席のコミュニケーションが目撃できることに感動しました。明らかにバーチャル空間で、バーチャルの姿でライブを見ているのに、ほんとうに会場にいるみたいな、境界線が曖昧になる没入感に襲われるなんとも不思議な体験です。

「一階席の皆さん~!」と手を振るCIELさん
今度は「二階席の皆さん~!」 実際に手を振り返すユーザーの姿まで見えるのが良い。

2曲目は、「空より」

会場を舞う印象的なしゃぼん玉。大きなそれが2つすーっとステージの方へ飛んでいくと、パンと弾けて、夜だった空が快晴へと移り変わる。そして、ステージ脇にあった意味深なプロペラが、ぐんと動き出して会場ごと空へと運ぶ。

「空へ泳いで どこまでも」と歌詞にリンクして、ぐんぐんと前に移動していく。

しゃぼん玉と風の流れを描くことで、疾走感あふれる飛行を表現していた

夜、昼、夕暮れ、明け方と時間も自由自在に行き来して、「VRならでは」の演出をふんだんにあしらったステージ演出でした。

今回は、実験的な「トライアルライブ」ということで、パフォーマンス自体は2曲のみでした。しかし、400人が一堂に会するというおそらくVRChat音楽ライブイベント史上初の試み、さすがの歌唱力に、神椿の世界観がVRChatのクリエイターとともに顕現した驚き、なによりこの没入感。参加できた人たちの記憶に、そして今後のVRChat音楽シーンに、小さくない爪痕を残すイベントだったと言っていいでしょう。

きっと、次の世界へバトンを引き継ぐクリエイターが出てくるはず、と思わせてくれた

YouTube配信のアーカイブは1週間後の12月3日まで公開。当日、参加できた方も、惜しくも参加できなかった方も、ぜひアーカイブを見て、また参加したユーザーに感想を聞いてみてください。次回があるとしたら、また今回のライブを見て刺激を受けたユーザーが創り上げるさらなる次の段階を見られたとしたら……そんな可能性を感じさせてくれるイベントでした。

https://www.youtube.com/live/QNC5L-IHSi0?si=HXWE77Xz_lW5cSh5

●参考リンク
・CIEL(X / YouTube
KAMITSUBAKI STUDIO公式サイト

ABOUT US
アシュトン「メタカル最前線」初代編集長
2021年3月より「VRChat」はじめソーシャルVR/メタバースの魅力を発信するメタバースライターとして活動。週100時間以上仮想空間で生活する「メタバース住人」として、AbemaTV「ABEMA PRIME」、関西テレビ「報道ランナー」、TBS「サンデー・ジャポン」ほか多くのメディア取材を受ける。2022年4月に「メタカル最前線」を創刊。