メタ・プラットフォームズは日本時間10月12日、第9回となる開発者向け年次イベント「Meta Connect」を開催。同社CEOのマーク・ザッカーバーグ氏をはじめ、複数の経営陣・開発者が登壇する基調講演を実施しました。例年この基調講演では、同社のxR分野に関する大きな発表が多数行われてきました。
現在、「メタバース」という言葉が各界より大きな注目を集めるようになったきっかけも、昨年10月にこの「Connect」基調講演にて発表された同社の社名変更にあったことは記憶に新しいですね。
今回の発表では、ハイエンド一体型VRゴーグル「Meta Quest Pro」の発表が一番の目玉でした。しかし、もう一方で気になるのは、Metaはこの1年間ここまで大きく世間をにぎわせた「メタバース」の潮流について、どう捉えているのか、そしてこの1年間を受けて、今後どういった「メタバース」を構築していくのかです。
本記事では、そんなMetaの1年間の総括と未来に向けた戦略が詰まった「CONNECT 2022」基調講演を徹底解説。一体その中で何が語られたのかに注目をして、約1時間30分に及んだその内容をおさらいします。
この数年で最大の変化はVRの「ソーシャルシフト」
まず、開幕とともにザッカーバーグ氏は昨年の「CONNECT」について、メタバースへのビジョンを共有したものだったと振り返ります。Metaが定義する「メタバース」を端的に示します。
A future where you can be present together with the people you care about, where you can teleport into any experience anywhere, where your devices just get out of the way and you can focus on the people you’re with, and experiences you’re having.
Meta Connect Keynote 2022(3:00頃)
「大切な人と一緒に存在できて、どこからでもどんな体験へもテレポートできて、デバイスのことなんか気にせずに一緒にいる人とその体験に集中ができる未来」。これが、Metaの定義するメタバースです。基調講演の中で、ザッカーバーグ氏からは度々「people you care about」という言葉が繰り返されていました。
実際に、その後の発言ではザッカーバーグ氏本人より「ゲーム以外では、ソーシャル体験に関連した興味深い取り組みが多く見られます」と話し、同社CTOのアンドリュー・ボスワース氏からは「ここ数年で最大の変化はソーシャルシフトだった」と振り返ったのです。
ザッカーバーグ氏は続けて「Quest Storeにて上位のアプリはソーシャルメタバースアプリだ」と伝えます。VRや最終的にはARも、その要は「人や場所を実際に一緒にいると感じる深い存在感」だとし、それはこれまでの何物にも比べられない特性です。ここで語られた「technology centered around people(人を中心にした技術)」というフレーズは、昨年の基調講演でも出てきた重要なキーワードです。
そして、このソーシャルメタバースアプリの代表例として紹介されたのが「VRChat」でした。
Apps like VRChat have established new places for people spend time in virtual reality, and they’re thriving. And people are doing all sorts of thing together. Playing games, hanging out, learning new hobbies, showing up as avatars who they are, or maybe who they wanna be. There are so many new things to do beyond the limitations of the physical space that we live in.
Meta Connect Keynote 2022(8:14頃)
VRChatをはじめとしたソーシャルメタバースアプリは、仮想空間で過ごす人々の新天地を確立しました。ゲームをしたり、遊んだり、新しい趣味に挑戦したり、人々は自分自身もしくは自分のなりたい姿を表すアバターで交流をします。我々が住んでいる物理的な空間にある制約を超えた様々な新しことがそこにはあります。
これは、ソーシャルメタバースアプリの魅力を端的に表すとてもわかりやすいフレーズです。筆者の個人的にはこれを話すVPのビシャール氏の発言には、特に「なりたい姿になる」というVRChat的な世界観に対しては、理解は示すけれど体感はできないというような、少し距離を置いたニュアンスを感じました。
なお、Meta社の開発するソーシャルメタバースアプリ「Horizon Worlds」は、これまでに比べてかなり大幅なグラフィック面でのアップデートが見受けられます。
また、「メタバースはあらゆるスクリーン、デバイスでどこからでもアクセスできるべき」という理念のもと、ウェブ版の開発にも着手しているとのことです。
約30分にかけて力説したメタバース×新しい働き方と「Quest Pro」
また、今回最も注目を集めた発表は、Metaによる最新のハイエンド一体型MRゴーグル「Meta Quest Pro」です。価格は22万6800円で、「Quest 2」の4倍の解像度を誇るフルカラーパススルーなど、AR用途も想定している点が特徴的です(製品ページ)。
今回発表された「Meta Quest Pro」は、そのネーミングから同じく「Quest」シリーズの後継機という誤解を受けがちですが、本デバイスは全く持って新シリーズのデバイスである点に注意です。
そして、今回利用用途として強く押し出したのが「未来の働き方」でした。これまで、ゲーム、ソーシャル、フィットネスの分野では一定程度の成功を収めつつあるVR。MetaがVRを次のレベルに持っていくために挑戦する主要なカテゴリーが「仕事」です。
ザッカーバーグ氏は、仕事のために毎年200万人の人が新しいPCを購入していることを指摘し、それらの一部もしくはすべての仕事はメタバースの方が良くできると豪語。実際に、リモートワークが増加する中、ビデオチャットよりもVRの方が、「存在感」を感じられるためチームワークに貢献できる点や、デザインの開発などクリエイティブワークでは特に、リアルタイムに3Dモデルを操作しながら会議を進めるなど現実では難しい働き方ができることなどを例示しました。
「Meta Quest Pro」は、いわば職場用のPC(Workstation)を代替するデバイスとして開発する、法人・開発者・クリエイター向けのデバイスであることが読み取れます。
事実、このセクションでは、マイクロソフトのCEOであるサティア・ナデラ氏を迎え、提携を発表。「Horizon Workrooms」と「Microsoft Teams」がシームレスに接続できるようになることや、「Microsoft 365」「Windows 365」をVR空間に持ってくる方法を模索していることを明かし、これもじきにQuest Storeにてリリースすることを伝えました。
さらに、「Azure Active Directory」や「Microsoft Intune」など大企業向けのデバイス管理ツールにQuest2およびQuest Proのサポートを加えるなど、職場へのVR導入を推進する様々な施策を発表しました。
着実にメタバースを構築するMeta
ほかにも、11月11日に発売となる「Among Us VR」や、これまでPlayStation VR向けに発売をしていた「マーベルアイアンマン VR」のQuest版リリースなど、ゲームタイトルの発表や、大きく進化した「Meta Avatar」についてなど様々な発表があった今回の基調講演。
Quest2は、累計約1500万台ほど販売されたとされるレポートも出ており、ゲーム機としては大きな成功を収めました。そして、これまでは1人プレイが前提だったVRゲームも、マルチプレイの潮流が高まり、ソーシャルメタバースアプリの隆盛もとどまることを知りません。
そこで打ち出した方針が、「職場向け」「MR/AR」への本格参入です。昨年の「CONNECT 2021」に先駆け、Metaは今後1年でメタバース構築に向けて約100億ドル規模の予算を割くことを公言。文字通り社運を賭けたメタバース構築に取り組んでいます。最終的に実現する次世代コンピューティングの時代に向けて、着実に歩みを進めることを改めて示した講演内容でした。
最近では、4万円台と安価なパンケーキレンズ搭載一体型VRゴーグル「PICO 4」も発売され、HTC VIVEも新デバイスの発売を示唆、Shiftallの手掛けるMeganeXも登場予定など、VRゴーグルも新世代に突入しつつあります。
確実に花開きつつあるメタバース市場。今後、どう展開していくのかMetaおよび業界全体の動向に注目です。
●参考リンク
・META CONNECT2022 基調講演
・プレスリリース